White Paper No.1

『真空管のMatched Pair について』

真空管アンプ、特にプッシュプル回路,又は差動回路(主に計測器で使用)を採用しているアンプにおいて、Matched Pair(マッチドペア)の真空管を使用することは、音質と機器の寿命の両面で重要な意味を持ちます。

1.Push-Pull回路のバランス、差動回路の精度を保つ

真空管アンプの出力段はPush-Pull方式とSingle方式がありますが、Push-Pull方式の多くの場合は、BまたはAB級動作ですので、真空管を1組(2本)とし信号の「プラス側」と「マイナス側」をそれぞれの真空管が分担して増幅し、最後に出力トランスで合成する方式です。この方式の場合2本の真空管の特性ができるだけ揃っていることが重要です。また差動アンプの場合も、2つの電圧増幅管に入る信号の差を増幅しますので、この2つの真空管の特性も揃っている必要があります。
この真空管の2本の特性が揃っていることをMatched Pairと言います。
1本の真空管の中に2つの電圧増幅管を有する12AX7/ECC83等の様に双極真空管の場合は両極の特性が揃っていることを弊社ではMatched Twin呼んでいます。従ってこの双極管の特性とほぼ同じ他の1本の真空管を使用する場合はMatched Twin & Pairと呼分けています。

Single方式のアンプの場合

モノラル環境で出力管を使用する場合は、出力管の要求は厳しいものはありません。しかし、ステレオの場合、NFBを充分掛けてしまえば問題は少なくなりますが、NFBが少ない場合、または全く掛けない場合、アンプの利得は、使用する真空管に依存します。この為、例えば、L/R チャンネルに使う2本の出力管がMatched Pairになっていない場合、アンプの利得が異なる事になります。これはプリアンプのバランスで調整すれば良いと考えがちですが、バランスのつまみが真ん中を指していない無い事は、気になりだすので、できれば、Single方式のステレオアンプの場合も、Matched Pairをお勧めします。

Push-Pull方式のアンプの場合

  • 任意に選んだ特性が揃っていない2本の出力管の場合:(前述のように)合成された波形が歪んでしまいます。
  • Matched Pairの場合: 2本の特性(電流値や相互コンダクタンスgm)が揃っているため上下対称のきれいな波形が得られ、低歪みでクリアな音質になります。

⋆ Single方式にも述べましたが、Push-Pull方式の場合は、できれば、2つの揃ったMatched Pair(4本の特性がそろっている)をお勧めします。

2.出力トランスの磁気飽和を防ぐ

Push-Pull方式の出力トランスからは、それぞれの真空管のプレートに逆方向の電流が流れるので:

特性が一致していれば: 互いの電流によって発生する磁束が打ち消し合い、出力トランスの鉄心が磁気飽和するのを防げます。

不ー致の場合: 打ち消しきれなかった電流の差(アンバランス電流)が残り、トランスの各巻線の磁束が偏る為、最悪の場合、磁気飽和を起こし、出力トランスの性能を低下させ、低域の力強さが失われる原因になります。

3.真空管とアンプの寿命を伸ばす

真空管は個体差が大きく、同じ電圧をプレートやグリッドにかけても流れる電流(プレート電流)が異なることがよくあります。
固定バイアスのPush-Pull方式の出力段では、Matched Pairの真空管を使ったとして、両方の真空管に均等な電流が流れるように、バイアス調整可変抵抗器で調整する必要があります。調整を怠ったり、不十分だと片方の真空管だけが異常に発熱し、早期故障の原因となります。
Matched Pairを使用することで、負荷を均等に分散させ、アンプ全体の安定性を高めることができます。

4.電圧増幅管と自己バイアス

電圧増幅管(プリ管とも呼ばれる)の一般的な設計では、ほとんど自己バイアス方式で設計されますので、プレート電流が多い真空管では、自動的に深いバイアスに、またプレート電流が少ない真空管では、自動的に浅いバイアスに、なる為、Matched Pair管でなければならないと言う事はありません。しかし、アンプ内の回路構成で差動回路を使用している場合は、Matched Pairでなければ、差動回路本来の性能を発揮する事が出来ません。